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[2004-08-28] 馬券研究メモ

血統は競馬において重要な要素だけれども、それだけですべてが決まるわけではない。ならば血統はブラックボックスにしておき、それ以外の情報から走る馬を推測する。レース当日までに絞込みを行う際の判断材料にしてほしい。

※4年くらい前に同僚向けに書いたメモが出てきたので加筆修正してみました。

厩舎に関する着眼点

クラブ会員にとって入厩先がどこになるかは極めてプライオリティの高いファクターだ。厩舎次第でよってG1ホースになれる素質を秘めた馬も条件馬で終わってしまう可能性もあるし、能力の落ちる馬でもコンスタントに賞金を稼いでくれることもある。

調教

調教方針
その馬にあった調教を行っているかどうか。すべての馬が坂路で追えばいいというものではない。とりあえずは馬によって施設を使い分けているかどうかを調べるくらいしか判断材料はないが。
調教助手のレベル
調教師が優れていても実際に騎乗するのは助手である。助手の腕が悪ければ理想的な調教ができないことは言うまでもない。
馬房制限
厩舎によって一度に入厩できる馬の上限は決まっている。管理馬の総数に対して馬房数が少ないと、仕上がっていてもなかなか入厩できないような状況が生まれるかもしれない。人気の調教師は往々にして馬房数は多いが、管理場の数との比率を意識したい。また、入れ替えに関しては活躍馬や有力馬主を優先するであろうことは容易に想像がつく。

調教方針や助手の腕のような情報は、通常メディアにはなかなか出てくることがない。もし中の人の情報が得られるようであればこのあたりを聞いておこう。ただし、主観で語られる部分も大きいため精度の向上は難しいポイントでもある。POGでの人気厩舎であれば情報は収集しやすくなるが、人気厩舎=優秀な厩舎とは限らないことに注意しよう。

レース

始動時期の傾向
一般的に2歳秋の中央開催以前にデビューしてクラシックや古馬になって成功するような馬は稀である。
にも関わらずこの時期にデビューさせる場合、早熟であることを前提としていたり、早期に投資を回収しないといけないクラブ馬、意図的に早めの調教を積まれた外国馬などのトレーニングセール出身馬が多い。
勝ち負けへのこだわり
一戦必勝体制なのか、目標のためなら前哨戦の負けは無視するのか。管理馬ごとに異なる場合もあるが、休養明け緒戦を常に調教替わりにしている厩舎は確実に存在する
ローテーション
常に間隔をあけて使うか、中一週など故障や疲労が蓄積しない限り使い詰めにすることが多いか。前者の場合馬の体調管理能力がないためそうなってしまうことがある。後者の場合、馬の体質をちゃんと考えた上でのことなのか馬主の都合などで着狙いで少しでも賞金を稼ごうとしているだけなのかを判断する。
また新馬や条件戦の場合馬の状態優先で適鞍を選んでいるのか、それとも他の出走馬との力関係、すなわち勝算を重要視しての出走なのかも着眼しておく。なおG1はそれ自体が目標であるから力関係の要素については無視してよい。
3歳未勝利
秋の福島開催で、3歳未勝利戦は終了する。それまでに勝ちあがれるかどうかは調教師の評判に繋がってくる問題。馬の体質に問題があるようなケースを除き、2歳から使い出して3歳未勝利までに勝ちあがれないようなケースが多い厩舎は正直信用できない。

ローテーション選択は調教師のセンスが問われるところである。特にクラシックを狙う馬では賞金加算できるかどうかでその後の馬生が大きく変わってしまうだろう。

森調教師はかなり特異な例である。積極的に管理馬を交流競走へ出走させ、賞金の獲得機会を最大限に利用している(平日であれば鞍上に武豊を確保しやすいのも理由のひとつ)。また交流重賞では自身の管理馬を複数登録し、他の有力馬が除外になるような戦略も多用している。

厩舎と人間関係

八百長とは言わないものの、人間関係により特定の馬を有利にすることは珍しいことではない。

馬主
有力馬主との人間関係は厩舎にとって非常に重要である。弱小馬主をないがしろにしてでも有力馬主の馬に有利になるようにローテーションを組むようなことは珍しくない。
生産者
馬主と比較的近い傾向がある。特に大手のオーナーブリーダー系との繋がりは馬主以上に重要である。
騎手
主戦が東西リーディング10傑以外では話にならない。素質馬でもローテーションどおりに運ばない(勝ちきれない)ことも多々あれば、新馬では一流騎手に手綱を取ってもらっても目標レースで騎乗してもらえないことも多い。
また、一流騎手への営業を優先し過ぎて所属騎手のお手馬がお粗末になってしまう場合もある。若手の所属騎手に継続的に乗せず一流騎手をとっかえひっかえしていたが本番で鞍上が確保できず、テンノリで結果が出ないなどということもある。

岡部ラインなど騎手同士の人間関係は昔ほど気にする必要はないだろう。

馬に関する着眼点

血統から推測できる要素

父系
極端な短距離やステイヤー血統とされる種牡馬以外であれば、距離の限界についてはそれほ気にしないでもよい(それは馬体を見て判断すべきだ)。芝・ダートの適性、スピードへの対応力を産駒の傾向から判断する。
母系
基本的には父系に対しての補完と考える。
インブリード
基本的には気休めと考える。3×3以内の配合の場合、能力うんぬんよりも体質への影響がないかを注意するほうが良い。
配合の相性
ニックスと呼ばれるような活躍場の出やすい配合は確かに存在する。ひととおり覚えておいて損はないが、絶対というものでもないのでこれも気休め程度に考える。
兄弟
兄弟で活躍馬がいる場合、牝系そのものに大物を出す資質はあると考えられるが、父と母それぞれの遺伝力の強さにより仔に引き継がれる能力は変動すると考えられるので鵜呑みにしてはいけない。全兄弟の実績は能力を期待するのではなく傾向(距離適性、馬場適性など)を判断する材料にとどめておく

血統論を学んでいる人にとっては物足りないかもしれないが、実際に馬券検討で役に立つ要素はこんなもんである。血統は傾向のための判断材料であり、こと馬券判断において能力そのものを既定してしまうことのないように。

馬自身から推測できる要素

馬体・馬格
体型でおおよその距離適性を推測することができる。一般的には胴体の長い馬はステイヤー、短い馬はマイラー~ステイヤーに分類される。長距離戦は有酸素運動の比率が高いため筋肉質の馬はスタミナ切れを起こしやすい。
混戦になった場合、馬格が小さいと他の馬に弾かれることがある。
※馬体重変動
前走から20kg以内の変動はそれほど気にしなくても良いが、二度以上続けての大幅な馬体減は体調に問題がある可能性がある。馬体増も3歳秋まではあまり気にしないでもよい。むしろ馬体変動は前走比ではなく長期間の推移で判断すべきである。また、デビュー時期にもよるが馬体重がほとんど変化しないのは成長していないのかもしれない。
健康度
順調にレースを使うことができるか。体質が弱いと連戦がきかず、また放牧から戻っても調教ペースが上がらないなど問題は多いが、体質が弱い=能力がないではないことに注意。それまで間隔をあけて使っていた馬が、中2週や中3週で使ってくる場合、体質が強くなり強い調教ができるようになった可能性がある
また健康な馬であっても体調の変動はある。
気性
折り合いがつき、馬込みに強く、叩きあいにも強い。そんな馬が理想だが、気性が悪い=走らないということではない。気性の悪さは闘争心の表れと受け取ることもできる。ポジティブな方向に出れば馬群を割ったり叩きあいに強くなり、ネガティヴに出れば折り合いがつかなかったりレースそのものを放棄してしまったりする。当日ネガティブな方向に出るような要素としては、輸送、大レースでの歓声、乗り替わりなど。

※当日体重はレース前にならないとわからないが、それまでの変動については事前に把握しておき、間隔や調教内容などで自分なりに増減幅を推測しておくとよいだろう。

調教から推測できる要素

レースとの相関性
調教とレースは異なる。調教でタイムを出してもレースでは走らない、あるいはその逆といったことは多い。普段調教では時計を出さないタイプの馬が好時計を出しているときには注意。なお好時計を出す馬は短距離馬が多い。特に坂路でこの傾向が見られる。
ハロンラップ
全体の時計が早くても最後でバテていないか、ラップをチェックするのは基本である。
馬場状態
調教コースはその日の馬場状態によって全体時計は3~5秒以上の開きが出る。好時計だからといって、他の馬との比較を忘れないようにする。遅い時計の場合も同じ。なお、馬場の内と外どこを通ったかでも差が出るが、最内でない限りはそれほど気にしないでもいい。なおハローがけ(地ならし)の後はタイムが出やすい。

調教で重要なのは自身のこれまでの内容、その日の全体の状況など、あくまでも相対比較であることを忘れてはいけない。

レースから推測できる要素

脚質・ラップ分析
どんな脚質であろうと、いわゆる行き脚のない馬は取りこぼしが多くなる。特に後方待機が多い馬は、ゲート後意識的に下げているのか行き脚がないだけなのか、末脚はあるのかをよくチェックしておく。
スローペース症候群では道中の位置取り以上に瞬発力の有無だけで決まってしまうことが少なくない。瞬発力が期待できないのであれば、時計の掛かるレースでの実績があるかをチェックする。
距離適性
マイルを超えると有酸素運動の負担が大きくなると仮定し、原則としてどんな馬でもその馬にとって持続可能なスピード(ラップ)で走り続けるのであれば、マイルまでの競馬でスタミナ切れを起こすことはなく、マイル以上となった場合、ペースとスタミナのバランスが距離適性を形成するというのが基本方針。ラップ分析を行わないで距離適性を判断してはいけない
ダート適性、重馬場適性
ダートや重など力を要する馬場への対応力は、基本的に走法とスタミナによって変化すると考えられる。これは主に父系の傾向が参考になるが、母によって補完される場合もある。
コース相性
右回り・左回りどちらかに実績が偏っていないか。また故障した馬は故障した側の脚をかばってオーソドックスやサウスポーになることもあるので、故障明けの一戦には注意を要する。
小回りコースはカーブを走る際に器用さが要求される。特に多頭数で中団からレースをするような場合には影響は無視できない。
季節による変化
理由は説明できないが、季節によって体調が変動する馬もいるが、遺伝よりも個体差のほうが顕著な傾向にあるため長期の観測以外に把握する方法はないだろう。

騎手から推測できる要素

力量
リーディング上位の騎手はおおむね信頼してよいが、連対脚質が逃げや追い込みに偏っている場合は注意。特に出遅れ癖の多い騎手は、たまたまゲート反応が悪い馬に乗ることが多いのか、タイミングをあわせられないことが多いのかで取捨を分ける。
短期免許の外国人騎手は、基本的にJRAは実力のある騎手にしか免許を発行しないこと、日本の悪い部分での慣習の影響がないことから信頼性が高い。地方からの移籍組もハードルが高いことや移籍前の交流戦などで中央の展開に慣れていることから信用度は高い。
連対脚質
馬の脚質と騎手の得意な(実績の多い)展開が合っているか。例えば末脚が切れない馬に“追えない”騎手の組み合わせは、馬の力がぬきんでている、展開に恵まれるなどのファクターが絡まない限り好走は難しい。
斤量
57kgまでは斤量は無視してよい。これを超える場合、馬格の小さい馬(450kgを切るような馬)の場合注意が必要。他馬との斤量差は5kgを越えない限りそれほど気にしなくてもよい。つまり60kgを背負っても他馬が56kg以上であれば意識する必要はない。但し、これまでの最大負担斤量から3kg以上の増量となった場合には注意

中館とヒシアマゾンのように、極端な脚質の組み合わせで実績を残す馬は相当な強さと考えられる。

まとめ

上記要素をそれぞれを自分なりで構わないので評価してみる。自分にとって不要と判断した項目は省略しても良い。これらを調査した上ではじめて枠の有利不利や展開などレース中の不確定なファクターについて検討するのが理想的な予想スタイルではないか。

もっとも、すべての出走馬についてこれらを調べ上げるのは中の人でも不可能なのではないだろうか。自分にしても、エルコンドルパサー産駒についてはかなり細かく追いかけているが、それ以外の馬についてまではとても調査する時間はない。だからこそ、データの分析結果が豊富な重賞やG1は、にわか馬券師であっても予想をしやすいわけだ。もちろん予想のしやすさとその予想の妥当性は別なところにあるのは言うまでもないことだが。

G1レース以外での馬券検討での取捨のカギは、そのレースを本気で勝ち負けしようとしているか。よほどの能力差がない限りは本気度の大きさが結果に出ると考えている。それを見分ける材料は、ここまでに記したと思う。

余談

競馬をはじめた当時、おいらは馬柱の父と母の父と兄弟を検討材料の中心にしてて失敗していたクチで、何が問題なのかを試行錯誤しているうちにたどり着いたのがこれ。例えば人間関係や厩舎方針なんかは変動が少なく、一度傾向を把握すれば済むのだけれども、馬の能力や体調は(予想における)変動幅が大きいので経過観測が必須になる。おいらが調教が予想の最重要ファクターとしている理由は、そんなところにあります。

残る展開の予想は、不確定すぎてかなり苦手です。これも人間関係などをつめていけばある程度傾向が見えてくるのかもしれませんが・・・。

大事なのはオッズを気にしないこと、自分がくると予想した馬を信じること。オッズも点数を常に3点以下にしておけば、長期的にはプラスになります。例外は3連単かな。これはふるいにかけた馬を5頭ボックス買い続けるのが簡単かつ最強じゃないでしょうか。くれぐれもオッズは見ないように。