Column

Road to NAR Meister───地方交流王者もまたよし

一昨年の暮れには優駿すら夢見た。迎えた春の失意。そして秋、深紅のエースは復活した。

待ち望んだ真打ち

サンデーサイレンスの肌で溢れんばかりの社台にとって、ノーザンダンサーの血が濃いエルコンドルパサーは願ったり適ったりの配合相手だったことだろう。事実、母の父SSは産駒の2割に達する勢いである。が、初年度はオープン特別止まりのブラックコンドルが稼ぎ頭というイマイチな結果でしかなかった。

そして2年目。名馬の誕生を予感させる雄大な漆黒の馬体、筋の通った牝系。デビュー前から「この馬は違う」と多くのエルコンドルパサーファンや関係者に注目を浴びていた存在、それがヴァーミリアンだった。デビュー戦を3馬身半の圧勝で飾り、その後も4戦2勝2着2回と連を外さぬまま出世レースとして名高いラジオたんぱ杯2歳ステークスを制すなど申し分ない成績で2歳を終え、クラシック戦線に名乗り出た。


photo by mickey2

そして誰ともなく、ヴァーミリアンを「エース」と呼ぶようになった(*)。

謎の惨敗

明け3歳の初戦はスプリングステークス。コンドルクエストは敗れたが、去年とは違う、誰もがそう思っていた。それがまったくの見せ場無きまま2桁着順の惨敗を喫するとは。皐月賞も京都新聞杯も何が何やらわからぬまま馬群に沈んだ。力不足以前に、競馬になっていなかった。そして陣営は、ダービー出走を断念した。

秋になっても不調は変わらなかった。いや不調と呼んでいいのかもわからなかった。神戸新聞杯、かつて(一方的に)ライバル視していたディープインパクトが“飛んだ”はるか後方でもがくヴァーミリアン。裏街道を歩んできた同じエルコンドルパサー産駒のトウカイトリックやシルクタイガーのほうがはるかにレースになっていた。もう菊どころではない。お前の力はこんなものだったのか?

光明

ヴァーミリアンの半兄にはダート重賞で活躍中のサカラートがいる。父はエルコンドルパサーと同じくミスタープロスペクター系のアフリート。以前からヴァーミリアンのダート適性は示唆する声が多かった。このまま芝で恥の上塗りを続けるくらいなら砂を試してみるのも手かもしれない。いや、何でもいいから、かつての走りを思い出してくれたら。すがるような気持ちで見守ったエニフステークス。

見違えるような走りだった。続く浦和記念でも、平安ステークスでも、途中でレースを投げ出すようなことはなかった。今のヴァーミリアンなら芝でも通用すると思う。でもせっかく走る気になったのだから、リズムを崩して欲しくない。カネヒキリを倒すまではダートの鬼を目指すのもいいじゃないか。

ヴァーミリアンは関西馬だ。関東で走ったスプリングステークスも浦和記念もフェブラリーステークスも見には行けなかった。今度こそは見届けないと。一昨年のクリスマスにもらったプレゼントのお返しとして。

ダイオライト記念

東京大賞典が距離短縮した今となっては、2400mという中央も含め最長距離に部類するダートグレード競走である。スカーレット一族はスカーレットブーケやダイワメジャーなどマイルでの実績馬は枚挙にいとまがないが、長距離で活躍した馬はほとんど見かけないしヴァーミリアン自身2000mまでしか出走経験がない。しかしフェブラリーステークスを見る限りマイルでは忙しい印象を受けた。距離延長はプラスなのかマイナスなのか。

相手関係もちょっとわからない。古豪タイムパラドックスは言うに及ばず、パーソナルラッシュも昨年このレースを制しているように長距離では一目置く必要があるだろう。ただ2頭ともここ最近調子を欠いているようでもあるので付け入る隙はもちろんある。上昇度、充実度ではヴァーミリアンがメンバー屈指だろう。やはり鍵は距離か。気難しい馬ではあるがスローで引っ掛かるようなタイプではないのは心強い。

再起する者、再帰する者

ところでダイオライト記念にはもう一頭、エルコンドルパサー産駒が出走する。中央では勝ち星を挙げることができず、船橋に転厩となったルースリンドだ。転厩後の活躍は目覚しく、13戦10勝2着2回3着1回と矢野厩舎の屋台骨を支える存在にまでなった。前走の大井金盃では重賞初挑戦ながら持ち前の末脚で2着に食い込むなど、こちらも充実著しい。ただ一線級のメンバーを相手にするのはこれが初めてで、どこまで中央勢に割って入れるかは微妙ではある。それでもこうして再び陽の目を浴びるまでに至ったのは嬉しい。馬券はヴァーミリアンとルースリンドとの馬連。恐らく的中することはないだろうが、これはエルっ仔の未来に捧げる一票だ。

レース

小回りな船橋を2周。中央のような大歓声が起こるわけもないが、予想通りのスローな流れに、早くも1周目のスタンド前でタイムパラドックスが折り合いを欠き先頭に立つ。対してヴァーミリアンはガッシリと手綱を抑えたままだ。ルースリンドもマイペースで中団のインを追走。2周目の3角でパーソナルラッシュやアルファフォーレスが動く。それでもヴァーミリアンは動かない。持ったままのヴァーミリアンを見て実況が叫ぶ。「手応えの違いを比べて下さい!」と。この時点でもう勝負あり。直線に向いてようやく鞍上の内田が追い出すと差は広がるばかりの大楽勝、終わってみれば2着パーソナルラッシュに6馬身差。

こりゃすごいわ。 >> レース映像

残念ながらルースリンドは中央勢に割ってはいることができず、勝ち馬とは3秒以上、タイムパラドックスからも8馬身離された5着とまだまだ南関レベルでしかなかった。それでも地方勢では最先着だし、6着テンリットルには3馬身の差をつけている。交流戦はともかく、地方重賞なら十分手が届くだろう。そういう生き方があってもいい。

[2006-12-20]追記

ルースリンドの主戦・公営船橋所属の佐藤隆騎手はこの日から1ヶ月と少し後の4月25日、レース中の落馬で頭蓋骨骨折の重傷を負い、意識が戻らぬまま8月8日に帰らぬ人となった。船橋のいぶし銀として活躍した佐藤騎手のご冥福を。ルースリンド自身も長く戦列から離れていたが、年明け復帰するようだ。

Happy Birthday

これではっきりした。目標は帝王賞、そしてジャパンカップダート。ラジオたんぱ杯の勝ち馬は1年おきにG1ホースとなっている。芝でなくてもいい、エルコンドルパサー産駒のG1制覇の夢は、この深紅のエースに託したい。父の誕生日を前に最高のプレゼント。ヴァーミリアンは粋な奴だ。

ただ気になるのは、石坂厩舎にはやたらとダートの猛者が多いことなのだが。兄サカラート然り、サンライズキング、サイレンスボーイ、そしてヴァーミリアン。路線カブリにならぬよう。

[2006-12-20]追記

砂の石坂軍団に、新たにアロンダイトが加わってしまった。嬉しいやら困るやら。ちなみに優駿2007年1月号を読むと、アロンダイトとともにヴァーミリアンもドバイに連れて行きたいようなことを石坂先生はコメントしている。実現したら素晴らしいことだ。G1制覇の実績でソングオブウインドやアロンダイトに先を越されようと、俺たちがエースの期待を抱いたのはヴァーミリアンなのだ。まずは今日名古屋で見せた圧巻の走りを、国内でもう一度。川崎で待つ。

真打ちの理由
初年度産駒は見事に瞬発力に欠けていた。上がり33秒台の脚を使えないと上のクラスでは通用しない。是非はともかくそれが日本の競馬の現状である以上、このままでは種牡馬として失格の烙印を押されてしまう。そんな不安を吹き飛ばしてくれたのがヴァーミリアンであり、アドマイヤメガミだった。