Column

[2007-01-15] Ace of Crops ───エースの名にかけて

「(2007年は)ヴァーミリアンの年になるかもしれませんよ」 石坂調教師、競馬ブックインタビューより。

第56回川崎記念、G1。かつては他の出走馬の単勝がすべて万馬券となったロジータの引退や、遠い世界へ旅立つホクトベガを見送った、川崎最大のレース。今年もまた、このレースには特別な意味がある。

ファンの思い

芝とダート。日本においては前者のほうが圧倒的に重みがある。恐らくは、この先G1を制覇する仔が現れてもエルコンドルパサーの代表産駒は菊花賞馬ソングオブウインドだろう。最後のクラシックタイトルのチャンスでレコード勝ちというドラマチックなシーンに、淀で、WINSで、モニタの前で観戦していたファンは涙した。だからソングオブウインドに対しては「ありがとう」という言葉がふさわしい。渡邊喜八郎氏が亡くなる前日、5連勝でジャパンカップ親仔制覇というプレゼントをくれた昨年のダートチャンピオン、アロンダイトに対しても「ありがとう」と伝えたい。

ただ、俺たちがもっとG1制覇の瞬間を待ちわびているのは、「おめでとう」といってやりたいのはヴァーミリアンなのだ。彼がエース的存在であることについてはダイオライト記念の項で触れた。今のヴァーミリアンの実力をもってすれば、この先まだG1制覇のチャンスはあるだろう。それでも今回の川崎記念は絶対に落とせない。ドバイへの道を閉ざさないために。

石坂師の思い

優駿2007年1月号に掲載されている石坂調教師へのインタビュー記事を読むと、アロンダイトがジャパンカップダートを制したタイミングにも関わらず、ヴァーミリアンへの言及が非常に多い(*)。直接それとは書かれていないものの、師がヴァーミリアンに対して並々ならぬ思いを抱いているのが伝わってくる。きっと師も俺たちと似たような心境なのではないだろうか。

石坂師はアロンダイトの前にダイタクヤマトでG1を勝っているが、ダイタクヤマトはデビューから自ら手がけた馬ではなかった。1998年、橋口(弘次郎)厩舎の助手であった石坂師が独立開業する際、橋口師がご祝儀として所属馬のダイタクヤマトかダイタクカミカゼのどちらかを石坂師に譲るということになった。同じ準オープンの2頭でもカミカゼは名馬ダイタクヘリオスの半弟である。対してヤマトはそのダイタクヘリオスの仔であるが、特に近親で活躍馬がいるわけでもない。当然ダイタクカミカゼを選ぶと思われたところ、石坂師が選んだのはヤマトのほう。その理由は「1歳若い方が長く使える」というものだった。

その後カミカゼはオープンで17戦したが北九州短距離ステークスでの2着が最高で1勝もできず、高知に移籍となった。それにひきかえヤマトはスプリンターズステークスを含む重賞3勝なのだから、ずいぶんと明暗が分かれたものである。後のインタビューで「橋口先生からいい馬をもらえたおかげ」と話しているが、橋口師も「ヤマトがスプリンターズステークスを勝てたのは石坂の実力」としている。両者の関係を伺わせるようなエピソードである。

前置きが長くなってしまった。アロンダイトがジャパンカップダートを制した際、石坂師が人目も憚らず涙したのはやはり自分が当歳から手塩にかけてきた馬の戴冠だからだろう。そして石坂師にとって初めてG1を予感させた馬、それがヴァーミリアンだったのではないだろうか。これまでにもG1制覇のチャンスはあった。一昨年の東京大賞典、昨年のフェブラリーステークス、帝王賞、ジャパンカップダート、東京大賞典。あるときは調整が狂い、ある時は条件不適、あるときは賞金不足に泣いた。しかし今度は違う。

ドバイワールドカップ

渡邊隆氏の言葉を思い出す。「世界でこれひとつ勝てばナンバーワンと認められるレースが4つある」。キングジョージと凱旋門賞がターフランナーにとっての究極目標なら、ダートを主戦場とする馬にとって最大の舞台がドバイワールドカップとブリーダーズカップクラシックであることに異論はないだろう。エルコンドルパサー自身は凱旋門賞に舵を振ったが、ダートに関しても抜群の適性を誇っていたことは言うまでもない。その資質が産駒にも受け継がれていることも国内では証明された。では、世界の舞台ではどうなのか。

こと日本馬にとっては、ノウハウの蓄積のなされていないブリーダーズカップ(*)よりも、すでに実績があり招待競走でもあるドバイが現実的な目標となる。今年のドバイワールドカップは相当なハイレベルで争われる可能性が高い。昨年のブリーダーズカップの覇者である北米年度代表馬インヴァソール、そしてそのインヴァソールの唯一の敗戦相手であり、実質の世界最強ダート馬という声も多いディスクリートキャット、この2頭がいるからだ。1月10日の予備登録締め切り時点で日本から出走を表明している有力馬はシーキングザダイヤだが、ダイワメジャーやポップロック、フサイチパンドラといった芝のG1ホースも名を連ねている。石坂厩舎の両雄ヴァーミリアンとアロンダイトにとってまずは彼らを蹴散らさないことには・・・日本のダートを代表する存在であることを証明しなければ、そもそも道が閉ざされてしまう。そもそもここで負けているようでドバイで通用するはずもない。個人的な予想にすぎないが、現時点でヴァーミリアンはアロンダイトとダイワメジャー(別のレースにまわるかもしれないが)、そしてシーキングザダイヤに続く4番手の候補とみている。だからこそ川崎記念で圧勝する必要があるのだ。この先もG1制覇のチャンスはある?否、その力をここで使わずして何の意味があるのか

展望

第56回川崎記念登録馬(1/24現在)
所属予想馬名予定騎手名
栗東ヴァーミリアンルメール
栗東レマーズガール武豊
栗東ドンクール福永祐一
栗東 シャーベットトーン横山典弘
栗東クーリンガー回避
栗東シーキングザダイヤ回避
船橋アジュディミツオー(未定)
川崎 ジルハー(未定)
川崎 チョウサンタイガー(未定)
船橋ナイキアディライト回避
大井パーソナルラッシュ(未定)
川崎 ビービートルネード(未定)
大井 ボンネビルレコード(未定)
船橋 シーチャリオット(未定)
岩手 オウシュウクラウン小林俊彦
愛知キングスゾーンナイキアディライト
笠松 ゲットゥザサミット(未定)
岩手 テンショウボス菅原勲

名古屋グランプリを見に行けなかったのは残念だけど、それほど悔いは残っていない。あのメンバーなら回ってくるだけで勝てる。もし負けたとしたら東海ステークスのときのように能力以外の何かが原因だろうと楽観していた。今回そんな余裕はない。例えばシーキングザダイヤにはこれまで一度も先着しておらず、原因はいろいろ考えられるにしても相性がよいとは言えまい。それに距離短縮も好材料ではない。1800mと2000mに実績はあっても前者は辛勝と惜敗、後者はいかにも相手が弱かった(*)。ただ強調材料もある。浦和、船橋、名古屋と交流重賞は3戦してすべて圧勝と地方特有の小回りコースへの対応はまったく問題ない。

これまでのヴァーミリアンのレースを振り返ると、実績があるのはほぼ平均以下のペースの場合だ。そしてもうひとつ、馬群を捌く器用さには欠けるため外枠のほうがスムースな競馬をしていることに注目したい。理想は先行集団の外を追走すること。カギを握るのはアジュディミツオーのペースか。これが平均ペースより速くならない流れであれば、3コーナーからひとマクりで勝てるだろう、末脚比べでヴァーミリアンに勝てそうなのはブルーコンコルドくらいしか思いつかない(エンジンの掛かりが遅いアロンダイトにとって地方の小回りは不向きだろう)。問題はハイペースになったとき。

アジュディミツオーはどんなペースで先行してもバテないのが強み。これに対してヴァーミリアンの武器は、折り合いの良さとゴーサインとともにすぐトップスピードに移行できる瞬発力。ハイペースの流れで控える形になったとき、どこまで末脚を伸ばせるのかは、やってみないとわからない。そうか・・・たぶん勝てそうなレースよりも、未知の要素が大きいけど可能性はある、そういうときに決まって勝ったりする。そんなレースを見に行かないほうが後悔するものだ。

1/22追記

クーリンガーに続きシーキングザダイヤまで回避となり、事実上アジュディミツオーとの一騎打ちが濃厚に。昨年の帝王賞や東京大賞典と比べレースレベルに疑問符がつくのは間違いなく、ここまでお膳立てが用意された以上ヴァーミリアンはただ勝つだけでなく、圧倒的に勝つことが使命となった。ここで過去の交流戦のような勝ち方を収めれば、ドバイへの道はもちろん今後のダート界を率いていくのはこの馬であることをアピールできるが・・・。

1/23追記

ナイキアディライトとキングスゾーンが回避し、アジュディミツオーの単騎逃げは間違いなさそう。

1月28日追記

出走馬及び枠順確定。

2007年1月31日(水) 川崎第10競走 ダート2100m(左)16:00発走

農林水産大臣賞典 第56回川崎記念[指定交流]G1 4歳上オープン 選定馬

賞金 1着60,000,000円 2着21,000,000円 3着12,000,000円 4着6,000,000円 5着3,000,000円
馬名斤量性齢騎手調教師成績
11オウシュウクラウン56牡4小林俊(岩手)櫻田浩(岩手)11-2-2-6
22レマーズガール55牝7武豊(JRA)湯浅三(JRA)11-9-8-16
33チョウサンタイガー57牡7酒井忍(川崎)八木仁(川崎)14-3-7-9
4ビービートルネード56牡4町田直(川崎)武井榮(川崎)6-3-3-6
45アジュディミツオー57牡6内田博(大井)川島正(船橋)10-2-2-6
6テンショウボス56牡4菅原勲(岩手)佐々修(岩手)6-5-3-9
57ヴァーミリアン57牡5ルメール(JRA)石坂正(JRA)6-3-0-7
8ジルハー57牡5坂井英(大井)佐々仁(川崎)7-6-4-21
69ゲットゥザサミット57セ6安部幸(愛知)藤田正(笠松)19-7-5-10
10ボンネビルレコード57牡5的場文(大井)庄子連(大井)5-5-4-8
711ゴールデンイースト57牡10森下博(川崎)菅原秀(大井)15-5-2-9
12シャーベットトーン57牡5横山典(JRA)奥平眞(JRA)5-4-5-4
813ドンクール57牡5福永祐(JRA)梅内忍(JRA)6-3-3-8
14パーソナルラッシュ57牡6山田信(船橋)高橋三(大井)7-2-1-11

仲間のひとりは当日名古屋からわざわざ有給を取って参戦する予定。オレは近所の恵比寿神社に初詣へ行った際、今年の誕生日(3/30)はドバイで過ごせますように、と祈った。ドバイに行きたいのはヴァーミリアンを見届けるためなのだから、単勝2倍を超えるようなら10万円くらい突っ込もうと思っていた。露払いよろしく、根岸ステークスをビッググラスが完勝で軍資金もできた。旅費をよろしく頼むよ。

考察

川崎記念は1999年より施行条件が2100mとなったが、過去7年の平均走破タイムは2分14秒3。13秒を切ったのはレギュラーメンバー、エスプリシーズ、そして昨年のこのレースでハナを切るとハイペースで飛ばし、上がり3ハロンが40秒4と自身もバタバタになりながら後続になし崩しに脚を使わせて逃げ切ったアジュディミツオーの3頭。

交流重賞全勝馬の挑戦

3歳秋まではクラシック路線を歩んだヴァーミリアン。初ダートとなったエニフS(OP)制覇を機に路線変更を図るとそれまで以上の活躍を見せ、特に交流重賞は3戦3勝と抜群の相性を誇る。環境の変化に動じないタイプで、初めてとなる川崎コースも問題にはならないはず。アロンダイト、ビッググラスなどダート重賞勝ち馬続出のエルコンドルパサー産駒の勢いに乗って、地方最強馬をねじ伏せることができるか。

バテてからの我慢比べにおいては無類の強さを発揮するミツオーに対して、折り合いの良さと瞬発力が武器のヴァーミリアン。スローならヴァーミリアンが3角マクリで楽勝、追走すらできないハイペースならセーフティリードを保ったままミツオーの逃げ切り。2強のマッチレースの声もあるが、この両者はあまり噛み合わないのではないか。とはいえ主導権はアチラにある。ヴァーミリアンが勝つためにはペースが速かろうが遅かろうが自力で動いてミツオーを潰しに行くしかない、という結論に達した。

5着 8番ヴァーミリアン(C.ルメール騎手)
「1600mは少し短いね。リラックスして走っていたけど、速い流れに馬が戸惑っていた。前もなかなか止まらないしね。この馬は1800mが一番合っていると思う」
4着 ヴァーミリアン(C・ルメール騎手)

「『スタミナを生かす競馬をして欲しい』と言われていて、その点ではうまく競馬ができたと思います。ただ最後は同じ脚色になってしまったし、少しゴチャついたのが痛かったですね」

ヴァーミリアンのレースキャリアの中ではわりと速い流れになったフェブラリーステークスとジャパンカップダートのコメントからもスピード決着やハイペースは向かないと読み取れる(ともにルメール騎乗)。しかしヴァーミリアンはほんとにハイペースでは用無しなのか?フェブラリーもJCDも個人的にはハイペースより直線でゴチャついたり揉まれて馬が(まさかヤネもか!?)やる気をなくしてるように見える。今回枠順はど真ん中、このメンバーなら後手を踏まない限りスンナリ先行集団の外目を追走できるため揉まれる心配はなさそうである。故にこれで負けたらスロー専用馬という現実を受け入れるしかない

ただヴァーミリアンが今後ダート界を率いていくべき存在であるためには、ハイペースの流れを自分から動いて逃げ馬を潰しに行く、そういう競馬をして勝つことが求められているのではないだろうか。ドバイで結果を出したいのであればなおのことで、ある意味今回の川崎記念はおあつらえ向きである。何しろガンガン飛ばすはずだ、ディフェンディングチャンプは。

連覇の掛かるアジュディミツオーから見てもヴァーミリアンとはまだ勝負付けが済んでいないため(出負けしたフェブラリーは参考外)、ここでなんとしてもどちらが上なのかを分からせないといけない。現役最強を誇示したいアジュディミツオーとドバイの掛かるヴァーミリアン、衰えの来る前にヴァーを叩き潰しておきたいベテランと、衰えが来る前のベテランに勝って主役交代としたい若手、賞金を目の前にして指をくわえてばかりのドンクール。思い入れ抜きに興味深い一戦である。

パドック

ヴァーミリアンのチェックポイントである体重変動。馬体重発表の後に取捨や投資額を決めるのが賢いやり方だろう。パドックの時点で増減幅は未確認だったが、さすがにデビュー前から評判だったグッドルッキングホース、馬体の見栄えはこのメンバーの中で群を抜いている。さらに周囲の状況に動じない精神的な逞しさが感じられた。後から撮影データを見て思ったことだが、落ち着きを感じたのは目つきかもしれない。すっかり子供っぽさが消えている。

川崎記念パドック
川崎記念パドック

ヴァーミリアン万全の出来。それさえ確認できればよく、他の馬はまったく気にならなかった。騎乗合図がかかると同時に馬体重もオッズも確認せぬまま馬券を購入するために窓口に向かう。マークシートには単勝式 レース番号10、馬番7、購入金額は10万円が記入済み。ただ、いざ窓口まできて馬体重の未確認が引っ掛かってしまい単複5万ずつに心変わり、それが今日のレースで唯一の心残り。単複買いに変更したとはいえ、今のオレにとって人生を捨てるに相当する大金を1頭の馬に託した。馬券を手にすると外したときのことは不思議と頭から消えた。

やっちゃったよ・・・

後からわかったことだが、馬体重が発表となりベスト体重のヴァーミリアンに対し、アジュディミツオーは前走から+5、レコード勝ちした帝王賞当時と比べると23kg増。恐らくこれにより直前でヴァーミリアンが一番人気に。

名古屋から参戦した知人は午前中に現地入りし、ゴール前(ウィナーズサークル)に陣取っていた。時間の制約がない日陰者のオレとは違い、まっとうな会社勤めの人にとっては決して簡単なことじゃあるまい。頭が下がる。知り合いの出資者も加わって3人でレースを観戦。思いは一緒、今日のデキなら勝てる。ここで勝たずしていつ勝つんだよ。どうやって勝つかを魅せてくれ。

時、来たる

初めて迎える一番人気でのG1なのになんでオレはこんなに平然としてるんだろう。寝不足だからかな(完徹2日目である)。アジュディミツオーの力が衰えたとかまだ復調途上とか、そんなことは少しも頭に浮かばず、ただ2強の接戦はなくて恐らくどちらかの圧勝になるような気がしていた。昨秋からの流れを見れば、ここは満を持してヴァーミリアンが主役に踊り出る絶好のタイミング、それが競馬の神様が用意している筋書きだろう。そんなことを考えていた。

押して叩いてハナへ立ったアジュディミツオー、よりによって出遅れたのがヴァーミリアンとわかった瞬間、何か嫌なものが頭をかすめた。でもそれはほんの一瞬で、こちらがあれこれ先読みをするより早くサッサと2番手まで盛り返してしまった。強力な逃げ馬が相手での出遅れは致命傷といってもよい。いきなりそんなことをやらかしたら「今日は運が悪い」はずなのだ。しかし現実にはアジュディミツオーの2馬身くらい後方、何事もなかったかのように2番手でガッシリ折り合っているヴァーミリアンの姿が。この時点で勝者が決まってしまったといってもよい。今までのヴァーミリアンなら後手を踏んだら最後にそれが響いて惜敗だったのではないかと思う。負の流れは断ち切れた。

実際には競馬の神様のせいでもなんでもなく、慌てず騒がずロスを最小限度に食い止めるために必要なことをやったルメールと、そのルメールからの指示に素早く反応したヴァーミリアン、彼ら自身によるファインプレーだ。取り付くのに小脚を使ったが、それでムキになることもなくしっかり折り合い、相手をただ1頭と決めての大名マーク。先頭に立ったアジュディミツオー、1週目のスタンド前では約3馬身のリード。問題はこの後。前を行く強力な先行馬に対してヴァーミリアンはどう戦うのか。

一週目スタンド前

2周目に入るとアジュディミツオーは息を入れるため13秒台にペースダウン。しかしマークを緩めないヴァーミリアンが差を詰めにかかるとあっという間にアジュディミツオーのリードがなくなった。自身でペースを握り後続になし崩しに脚を使わせるはずが、こんなに早く、しかも持ったまま追いつかれてしまうともはやなす術なし。3コーナーで馬体が重なる。ターフビジョン越しにもはっきりわかる手応えの違い。

川崎は小回りコースの多い地方競馬の中でも特に平べったい形状によりコーナリングが難しいコースとして知られている(それが他の競馬場と比べて上がり3ハロンのタイムが遅いことにも繋がっているのだろう)。直線を向いたときの2頭はほぼ横並び。ここからゴールまでの200mで名古屋や船橋で見せたパフォーマンスを寸分の狂いもなく再現し、まだ余裕を感じさせる手応えのまま後続を6馬身千切り捨てた。レース前に勝手に設定させてもらったハードルをあっさりとクリア、正直ケチのつけようがない。

川崎記念ウイニングラン?

菊花賞とJCダートは人気薄での大駆けだったが、今回は一番人気で堂々の勝利。エースはこうでなくては。

川崎記念ウイニングラン?

表彰式を待っていると目の前に及川サトルアナが。「強いなあ、6馬身だよ」と独り言のようにつぶやいてる。口取りはずいぶん大勢で行われた。地方の場合人数制限がないらしいので、平日というのに多くの出資者が駆けつけたのだろう。また、この後すぐにドバイに向かうルメールがインタビューで「ドバイでもこの馬と」と答えると周囲からオォー!という歓声と拍手が沸き起こった。やはり現地観戦はよい。この空気を肌で感じられる。

デビュー当時の予感から2年4ヶ月。ずいぶん遠回りで一喜一憂させられたけど、こうして辿りつくべきところに辿りついてくれた。さすがエース。でもここはまだゴールじゃない。エルコンドルパサーが引退したときからファンが抱き続けている夢、この夢を改めてヴァーミリアンに託したいと思う。2ヵ月後、今度は海の向こうで。

レース後のコメント
1着ヴァーミリアン(C.ルメール騎手)

「馬のコンディションは良いと聞いていたので、この馬の良さを十分発揮出来ればと思っていた。アジュディミツオーは手強いと思っていたので、アジュディミツオーをマークしていこうと決めていた。4コーナーでも手応え十分。いつでも交わせると思っていた。今日は完勝です」

1着ヴァーミリアン(石坂正調教師)

「強力な逃げ馬アジュディミツオーがいたので、その馬には注意するように伝えた。出負けした時にはビックリしたが、すぐに良いポジションに付けてくれたし、手応えも良かったからね・・。心配はしていなかった。今日は落ち着き過ぎるくらい落ち着いていたし、今までで最高の状態で連れて来ることが出来ました。この後は厩舎で調整し、招待されれば、ドバイへ連れて行きたいと思っています」

2着アジュディミツオー(内田博幸騎手)

「随分と上向いてきたけど、まだ本調子じゃないね。でもコンスタントに走っているし、今日は勝ち馬が強かったよ。」

3着ドンクール(福永祐一騎手)

「無理に付いていかず、何とか2着をと思っていたけどね・・・。今までは幼さが残っていたけど、ここにきて、ようやく身が入ってきた印象。今後が楽しみになってきたね」

現3歳の管理馬には阪神ジュブナイルフィリーズ2着のアストンマーチャン、新馬戦を持ったままで8馬身千切ったオーシャンエイプスがいる。「2007年は石坂厩舎の年になるかもしれませんよ」。

データ

第56回川崎記念 結果

全着順
馬名性齢騎手斤量タイム着差上り人気馬体重増減
157ヴァーミリアン牡5ルメー572:12:092:12:0938.31510kg2
245アジュディミツオー牡6内田博572:14:02640.22537kg5
3813ドンクール牡5福永祐572:14:06239.26500kg-10
4712シャーベットトーン牡5横山典572:14:08139.43516kg-6
534ビービートルネード牡4町田直562:15:02238.98475kg-5
6814パーソナルラッシュ牡6山田信572:15:02クビ40.07495kg13
7610ボンネビルレコード牡5的場文572:15:0511/238.74475kg-8
822レマーズガール牝7武豊552:15:063/440.35477kg-8
933チョウサンタイガー牡7酒井忍572:15:071/239.510465kg1
1058ジルハー牡5坂井英572:15:081/239.111464kg-6
1146テンショウボス牡4菅原勲562:18:00大差41.012528kg0
1269ゲットゥザサミットセ6安部幸572:18:06341.713505kg7
1311オウシュウクラウン牡4小林俊562:30:09大差50.59499kg-2
-711ゴールデンイースト牡10森下博57-除外--469kg-7

※売上げはこれまでのレコードであった第46回(5億9千万円)を超える6億500万円を記録。

NAR

ハロンタイム
[2007] 7.0 - 10.9 - 12.1 - 12.8 - 12.3 - 12.8 - 13.8 - 12.3 - 13.3 - 13.0 - 12.6
[2006] 6.8 - 11.2 - 12.2 - 12.5 - 11.6 - 12.4 - 13.6 - 12.1 - 13.2 - 14.1 - 13.1
通過タイム
[2007] 7.0 - 17.9 - 30.0 - 42.8 - 55.1 - 67.9 - 81.7 - 94.0 - 107.3 - 120.3 - 132.9
[2006] 6.8 - 18.0 - 30.2 - 42.7 - 54.3 - 66.7 - 80.3 - 92.4 - 105.6 - 119.7 - 132.8
上がり
[2007] 4F 51.2 3F 38.9
[2007] 4F 52.5 3F 40.4

参考までに昨年のハロンタイムも掲載した。昨年は重に近い稍重という時計の出やすいコンディションで行われた(直前の9Rで1400mのレコードが記録されている)。良馬場の今年とではかなりの馬場差があり、他のレースを見ると同距離で1~4秒今年のほうが遅い。ヴァーミリアンは昨年とコンマ1秒違いで走破しているが、過去3度の12秒台はすべて稍重以下で、良馬場に限定すると2000年インテリパワーの2分14秒5が最速となる。良馬場で2分14秒2の走破時計、上がりは今年のほうが速い。そして着狙いに徹したドンクールに2馬身差をつけている。ヴァーミリアンとの着差だけ見るとアジュディミツオーは本調子ではなかったように映ったが、実は去年並みかそれ以上に走っていると考えられないだろうか。

ダイオライト記念でヴァーミリアンを駆っていたのはほかならぬ内田博之。ヴァーミリアンの末脚の威力を身を持って知っている以上、ハイペースを深追いさせて末を無くさせる、という読みはあったに違いない。その結果の6馬身は能力の差なのか、馬場適性の差なのか・・・。

脚注

優駿でのヴァーミリアンへの言及
「(ヴァーミリアンは)厩舎にいるときに、何をするか分からないというぐらいの雰囲気を見せると走る」とのこと。剥き出しの闘争心が原動力ということか。他にもいろいろ触れているので一読されたい。
ブリーダーズカップ
最大の難点は馬場の違いよりも、開催が各競馬場で毎年持ちまわりということ。地元アメリカの馬ですら開催場所によって有利不利があるほどなのだから、2、3回の遠征で日本馬がノウハウを蓄積するのは不可能に近い。必勝体制で臨むなら北米遠征こそ滞在競馬を選択すべき、というのがオレの持論。
過去の実績
1800m戦はエニフステークスでドンクールにハナ差勝ち、平安ステークスはタガノゲルニカにアタマ差2着(但しスタート後落鉄のトラブルあり)。2000mは浦和記念を3馬身差の楽勝だが骨っぽい相手はせいぜいハードクリスタル程度。1600mはフェブラリーステークスのみで、直線伸びきれず勝ったカネヒキリから5馬身半遅れての5着。これらの結果から能力を活かせる下限は2000mとみている。